<ミャンマーの声>
 軍事クーデターが起きたミャンマーで、約260万人(国連推計)の国内避難民が生じ、国外にも多数の人が逃れている。内戦の激化や軍政が実施を発表した徴兵制のため、避難民のさらなる増加が懸念されている。切実な人道支援のニーズに、日本を含む国際社会は応えられているだろうか。ミャンマーの人権問題に詳しい山形大の今村真央教授(東南アジア史)に聞いた。(北川成史)

◆国内避難民260万人、支援が追いつかない

 避難民キャンプが点在するミャンマー・タイ国境地帯。250人以上が暮らすキャンプの責任者ソーラードー氏(51)は切望した。「食料がほしい」

タイ・ミャンマー国境地帯にある避難民キャンプ。体が不自由な少年もいた

 避難してきたのは約2年前。タイ在住のミャンマー人に支援されてきた。だが避難民があちこちで増え、支援が激減したという。  ミャンマー側の国境貿易の要衝ミャワディ周辺は最近、国軍に対して少数民族と民主派が攻勢を強め、緊迫している。  「多くの人がタイに避難しようとしている」。タイ側のメソトで避難民への人道支援をするNGO「SAW」の執行委員コミョー氏は気をもむ。メソトには今年初め時点で10万人以上の避難民がいたという。「支援団体は最善を尽くしているが、資金が足りない」    ◇

◆山形大・今村真央教授「在日ミャンマー人の教育、就労支援を」

 2021年2月の国軍のクーデター後、ミャンマーで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や世界食糧計画(WFP)などの国際機関が人道支援に携わり、日本も資金を拠出しているが、順調ではない。

今村真央教授

 今村氏によると、ミャンマーへの国際人道支援には、国際機関が軍政の了解の下で実施する「公式ルート」と、民間団体による越境型などの「非公式ルート」がある。今村氏は「国軍が紛争地へのアクセスを制限しているため、公式ルートの支援は、都市部やクーデター前からある大型のキャンプなどに偏っている」と問題点を挙げる。  最近ではタイ政府が1月、東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議で、ミャンマーに支援物資を運ぶ「人道回廊」の構想を提起。3月25日、ミャンマー赤十字に約2万人分の食料や生活必需品を引き渡した。  ただ、ミャンマー赤十字は国軍との関係が深い。今村氏は「人道支援は国軍から独立していないと意味がない」と断じる。  公式ルートに制約がある一方、非公式ルートは国際社会による活用の余地が大きい。ミャンマーでは独立から70年以上、国軍と少数民族との内戦が続いている影響もあり、草の根組織による共助のネットワークが広範囲に形成されている。

◆民主化の攻勢で内戦が激化、徴兵制で国外逃亡が相次ぎ…

 今村氏は「非公式といっても、例えば、タイからの越境型国際人道支援には40年以上の実績があり、欧米政府も長年、資金を出している。現在、受益者は100万人を超えると推定される」と話す。  ミャンマー各地で昨年10月以降、少数民族や民主派が攻勢に出ており、内戦の激化が避難民の増加に拍車をかけている。劣勢の国軍は2月、徴兵制実施を発表。兵役を拒む若者らの国外脱出が相次いでいる。人道状況が悪化する中、日本ができることはないのか。

タイ・ミャンマー国境地帯の避難民キャンプで、草の根の市民による支援物資を受け取る子どもら

 「内戦の先行きが見えない現在、草の根組織の後押しが欠かせない。日本も越境型支援に積極的に取り組む段階にきている」と今村氏は強調する。また、ミャンマーで教育が停滞する中、軍政の干渉をかわしつつ、日本語教育や人材育成といったソフト面での支援も図るべきだという。  日本に在留するミャンマー人は昨年末時点で8万6000人を超え、前年末から5割以上増えた。  今村氏は「急増する在日ミャンマー人への支援は、彼らから母国への送金という形で、ミャンマーへの人道支援につながる」とも指摘。「倫理的にも戦略的にも、難民認定や奨学金給付などを通じて、ミャンマー人の留学や就労を支援していくべきだ」と求めた。

 今村真央(いまむら・まさお) 米オーバリン大を卒業後、タイの人権団体で勤務。シンガポール国立大大学院に進み、ミャンマーの少数民族カチン人についてフィールドワーク調査を重ね、博士号を得た。2021年のクーデター後は内戦と政治的暴力の歴史からミャンマーの現状を分析した論考を執筆。人道支援のためのクラウドファンディングを実施し、5500万円を調達した。